中小企業における事業承継 総論
中小企業と小規模事業者をあわせた数は、日本企業全体の99%を占めているといわれています。
中小企業は日本の経済の基盤を担っているわけですが、他方60歳以上の経営者の割合は全体の半数以上ともいわれ、中小企業の次世代への事業承継は重要な課題となっています。
中小企業の特徴は、何といっても「所有と経営の一致」でしょう。
このことは財産の公私の混在化という側面もありますが、迅速な経営判断という強みの側面もあります。
そのため、中小企業の事業承継においては、株式と事業用財産の後継者への集中が大きな課題になります。
これらが出来ずに漫然と事業承継をしてしまうと、事業用財産や権利の分散が生じ、迅速な経営判断ができなくなるばかりか、事業用財産の散逸により事業の継続が困難となることすらあるのです。
事業承継の代表的な方法には以下の3つがあります。
①親族内承継
②従業員や社外への承継
③M&A(企業間の吸収・合併による承継)
本稿では1番目の親族内承継について、記載します。
親族内承継とは
親族内承継は、その名の通り経営者の親族が事業を承継するケースです。
親族内承継のメリットは、
心情的に関係者から受け入れやすい。
後継者を早くに決め、承継の準備や周知の期間を確保できる。
相続や遺言を利用することで、所有と経営の一致をスムーズに行うことが可能
といったものが挙げられます。
親族内承継のデメリットとしては、
他の相続人への公平な財産分配ができない可能性がある
ことが挙げられます。
また、そもそも親族内に事業承継に乗り気の者がいる必要があります。
子どもが事情の承継に乗り気ではないような場合には、親族内承継ができないケースもあるでしょう。
親族内承継の具体的手法
親族内承継は、親族間という特徴を利用して「生前贈与」と「相続」をフル活用していくことが必要です。
「生前贈与」は、経営者が生前において株式や事業用財産を後継者に譲渡していくことです。
「相続」は、特に遺言を活用して、後継者に株式・事業用財産を集中していきます。
注意すべきは、遺留分の侵害です。
侵害した遺留分に対して代償しうる金銭があれば良いですが、ない場合には会社の財産を処分したり、株式の一部を分配する必要が出てくるため、承継後の事業に影響が生じる可能性があります。
これに対しては、経営者が健在である間に事前の遺留分の放棄をさせたり、推定相続人全員の合意により後継者が所有する自社株等の財産について、その価額を遺留分を算定するための基礎となる財産の価額に参入しないこと等を定める(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)ことが考えられます。
また、議決権制限株式(会社法108条1項3号)を活用することも考えられます。
後継者以外の相続人に対して議決権制限株式を割り当て、遺言で普通株式を後継者に相続させるという手法です。
この方法によって、後継者以外の相続人に対しては財産的な手当てを行いつつ(その結果として遺留分減殺の請求をされない。)、議決権を後継者が独占することができるのです。
※この記事は平成27年10月現在の法制度を前提に記載されています。